そもそも働き方改革関連法とは?
働き方改革関連法は、日本法における8つの労働法改正を行う法律の通称です。
2018年に働き方改革関連法が成立し、2019年4月から順次施行されています。
「一億総活躍社会」という言葉を、耳にしたことがある人も多いと思います。
この言葉は、働き方改革関連法とともに、世の中に普及した言葉です。
具体的には、一億総活躍社会は日本が50年後も人口1億人を維持しながら、職場・家庭・地域の誰しもが活躍できる社会のことを意味しています。
ではなぜ、政府は一億総活躍社会を目標として掲げるようになったのでしょうか。
その理由は、近年日本は少子高齢化の影響による労働人口の減少が著しく、総人口と比べて生産年齢人口の減少ペースが上回っていることにあります。
日本の人口は現在減少し続けており、2050年には1億人を下回ることが予測されています。
人口が減るということは、労働力を担う世代とされている生産年齢人口である15歳から64歳の人口も当然減っていきますから、このまま減少し続ける状況に何も手を打たずにいれば日本経済の低迷・国力低下を招きかねません。
日本が今、直面している以下のような問題を解決するための一つの方法として、現在政府は働き方改革を推進しているのです。
- 長時間労働慢性化/有給取得率低迷
- 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の格差
- 共働き増加や高齢化社会の影響による介護など、働く人サイドのニーズの多様化
具体的な内容を見ていきましょう。
■長時間労働慢性化/有給取得率低迷
長時間労働慢性化や、有給取得率低迷は、労働者の意欲低下にもつながりますから、労働環境整備も急務とされています。
■正規雇用労働者と非正規雇用労働者の格差
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金・待遇格差については、社会的にも大きな問題として扱われてきました。
派遣切りや、交通費や通勤手当が正社員とは同じ額支給されないといった不平等をなくす動きが、働き方改革によって高まっています。
アルバイトやパートでも有給取得できるような体制づくりや、非正規雇用から正社員への採用といった取組みも進められています。
■共働き増加や高齢化社会の影響による介護など働く人サイドのニーズの多様化
子育てや介護など、さまざまな家庭状況に合わせて在宅勤務を導入したり、フレックスタイム制度を採用したりするなど、企業ごとにさまざまな工夫をしながら家庭と仕事の両立ができるよう、環境整備を進めています。
これらの目的を果たすために進められている働き方改革は、8つの柱で構成されています。
こちらについては、次項から解説していきます。
改正のポイントと従来の制度との違い
時間外労働上限規制
働き方改革施行前は、法定労働時間とされている1日8時間、週40時間を超過した労働の上限について、法的拘束力がない厚生労働大臣の告示によって「月45時間」「年360時間」という限度時間が示されている状態でした。
この上限を超えて時間外労働をする必要がある場合については、「特別条項付きの36協定を締結すれば、労働者に限度時間を超えて就業させることも可能」という状況だったのです。
しかし、今回の法改正によって時間外労働上限は「月45時間」「かつ年360時間」を原則とすることが定められました。
時間的には大きな変動がないように見えますが、新しく法律を定めたことで、違反した場合は罰則が科されるようになったのが、大きな変更点です。
罰則は6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金という内容となっています。
限度基準告知とは違い、法的拘束力を持たせたことは、時間外労働削減を推進していく大きな一歩といえるでしょう。
■有給休暇取得の義務化
働き方改革における有給取得義務では「使用者が労働者に対して、年次有給休暇を年5日取得させる」ことが義務付けられました。
10日以上年次有給休暇が与えられている労働者に対しては、本人の希望を踏まえた上で、時季を指定して5日以上取得させることを企業に対して義務化しています。
これは、全企業を対象とする義務です。
こちらも違反した場合、30万円以下の罰金が科せられます。
対象者一人につき30万円の罰金となりますから、10人有給対象者がいれば300万円、100人対象者がいれば3000万円以下の罰金が科せられる可能性があるので、注意が必要です。
対象となるのは、正社員だけでなく「フルタイム勤務の労働者」「特定パートタイム労働者等のうち、所定労働日数が4日の労働者」「特定パートタイム労働者等のうち、所定労働日数が3日の労働者」「特定パートタイム労働者等のうち、所定労働日数が2日の労働者」も対象となります。
このあたりが複雑なので、労務担当者はしっかりと職場の現状を把握し、必要に応じて対処していきましょう。
フレックスタイム制見直し
一定期間内で所定労働時間を充足すれば、始業時間・就業時間を個人の自由裁量とする制度が、フレックスタイム制です。
就業時間を自由に設定することで、柔軟な働き方を実現することが目的とされている制度となっています。
このフレックスタイム制が、働き方改革により従来は時間外労働時間の清算期間が1カ月とされていたものが、3カ月以内へと延長されました。
例えば、子どもが家にいる夏休みは労働時間を短く設定し、そのほかの月に長く働きたいというようなニーズにも、柔軟に対応することが可能となります。
清算期間が3カ月となったことで、労働者はより柔軟な働き方が実現できるのが、大きなメリットです。
繁忙期・閑散期がある職場の場合は、特に大きなメリットを感じられるでしょう。
企業においても、通算の労働時間精算というシステムを採用することにより、労働時間が長い月と、労働時間が短い月とで通算できるため、残業代節約も実現できる、ということです。
ただ、労働時間の計算は複雑で、間違えてしまうと時間外手当や労働時間上限規約に違反してしまうケースもありますから、注意が必要となります。
インターバル制度の普及・促進
労働時間等設定改善法改正によって、勤務時間インターバル制度の導入・促進を目指すこととなり、企業に対しても努力義務が明文化されています。
インターバル制度とは、前日の終業時刻と翌日始業時間の間に、一定の休息時間を確保することを目的として制定された制度です。
「日をまたいで労働し、翌日も早朝から出勤する」といった勤務状況を続けていると、心身の健康を害する可能性があります。
また、休息時間を確保できず、休憩がしっかりとれていない状況で仕事を始めても、生産性の高いパフォーマンスは期待できません。
こういった問題点をクリアにするために、勤務時間インターバル制度導入が制定されました。
EUでは、終業時間から翌日の始業時間の間に、11時間の休息を連続でとることを義務付けています。
グローバルでも定番化しつつあるこの制度を導入することで、企業も従業員も健康とワークライフバランス確保が可能となり、企業イメージアップなどのメリットも期待できます。
また、働き方改革推進支援助成金を受けられ、従業員の生産性向上や離職率低下にも効果が期待できるというのは、企業にとっても大きなメリットといえるでしょう。
高度プロフェッショナル制度の新設
働き方改革では、特定高度専門業務・成果型労働制『高度プロフェッショナル制度』が新設されました。
高度プロフェッショナル制度とは、年収1075万円以上で、専門的かつ高度なスキルを持つ労働者を対象に、本人の同意のもと、労働時間に基づいた制限を廃止する制度です。
高度プロフェッショナル制度を導入するメリットとしては、以下のようなものがあります。
■労働生産性向上
高度プロフェッショナル制度の大きな特徴は、実働労働時間に対して報酬が支払われるのではなく、成果や業績に対して報酬が決定される点にあります。
自分の裁量次第で時給換算した際の報酬が変動するため、労働者としても効率性を追求するモチベーションとなり、最短で業績や成果を上げるよう努力することがメリットです。
企業としても、労働生産性向上や、企業収支改善につながる効果が期待できるでしょう。
■不公平感是正
日本では、残業代の支払いを前提とした賃金制度を採用している企業が多く、成果や業績よりも残業時間次第で給与に差が出てしまうため、成果や業績にウエイトを置く社員や、生産性重視の社員 が不当な待遇を受ける事態も発生しがちです。
高度プロフェッショナル制度は、労働時間に関わらず、成果や業績に対して評価されるため、不公平感の是正が可能となります。
■高度プロフェッショナル制度の対象となることで、賃金が下がらない
高度プロフェッショナル制度は「制度対象の社員の賃金を減らしてはいけない」と定めています。
現時点の賃金以下にはならないことが保証されるため、向上心の高い労働者にとっては大きなメリットとなるでしょう。
同一労働・同一賃金実現
非正規雇用や有期雇用のパートタイム労働者待遇改善のため、仕事内容などが正社員と同程度の場合、賃金・休暇・福利厚生などを同程度の待遇にすることを企業に義務付けました。
同一賃金・同一労働を導入するメリットは、企業側としては
- 非正規雇用労働者の労働生産性の向上が期待できる
- 優秀な人材確保や、採用がしやすくなる
といった点があげられます。
労働者側としても
- 賃金アップへの期待ができ、働きがいを感じることができる
- キャリアアップに対する障壁がなくなる
ことがメリットとなります。
中小企業における残業60時間超の割増賃金率引き上げ
2023年4月から、月60時間を超える時間外労働を対象に、中小企業に対しても50%の割増賃金率が適用されます。
労働時間の適正な把握や、代替休暇の検討、残業削減や業務効率化などに取り組み、準備を整えることが必要です。
産業医権限強化
産業医とは、一定以上の従業員がいる企業において、労働者の健康管理を行うために必要な医学知識について、厚生労働省令の定めている一定要件を備えた医師のことです。
労働安全衛生法で規定されているもので、厚生労働大臣が定めた研修を修了し、労働衛生コンサルタント試験に合格すると、産業医となることができます。
今回の働き方改革を受けて、産業医の権限が強化されました。
まず、事業者が産業医に対して労働者の情報提供充実・強化を実施すること。そして時間外・休日労働が1カ月80時間を超えた労働者や、高度プロフェッショナル制度対象労働者に対して、産業医が面接指導を実施するよう義務付けました。
また、産業医から企業に行う勧告の意味合いが強化され、勧告された内容は企業から衛生委員会または安全衛生委員会への報告が義務付けられるようになったのです。
また、その勧告を受けて企業がどういった措置をとったのかも、議事録に記録した上で、補完することも義務付けられています。
関連法案の適用範囲
働き方改革は「大企業」と「中小企業」の範囲を定めており、働き方改革における大企業は、中小企業の定義に当てはまらない企業とされています。
中小企業かどうかの判断基準は「資本金の額または出資総額」「常時使用する労働者数」で決まります。
事業所単位ではなく、企業単位で判断されるので、その点も留意してください。
また、臨時雇用のパートやアルバイト以外は常時雇用する労働者数に、算入されるので、注意が必要です。
■中小企業の定義
【小売業】
資本金の額/出資の総額が5000万円以下
常時使用する労働者数が50人以下
【サービス業】
資本金の額/出資の総額が5000万円以下
常時使用する労働者数が100人以下
【卸売業】
資本金の額/出資の総額が1億円以下
常時使用する労働者数または100人以下
【その他】
資本金の額/出資の総額が3億円以下
常時使用する労働者数または300人以下
この条件に当てはまらない場合は、大企業と判断されます。
働き方改革は、中小企業に対して猶予が適用されていますが、大企業と判断された場合はすでに適用が始まっていますので、注意しましょう。
では、続いて各制度の実施時期についてです。
【時間外労働上限規制】
大企業:2019年4月
中小企業:2020年4月
【有給休暇取得の義務化】
大企業・中小企業ともに2019年4月
【フレックスタイム制見直し】
大企業・中小企業ともに2019年4月
【インターバル制度の普及・促進】
大企業:2019年4月
中小企業:2023年4月
【高度プロフェッショナル制度の新設】
大企業・中小企業ともに2019年4月
【同一労働・同一賃金実現】
大企業:2020年4月
中小企業:2021年4月
【中小企業における残業60時間超の割増賃金率引き上げ】
中小企業:2023年4月
【産業医権限強化】
大企業・中小企業ともに2019年4月
企業が優先的に取り組むべきポイントと個人への影響
高度プロフェッショナル制度実施時の注意点
高度プロフェッショナル制度を実施するためには、注意すべきポイントや、必要となる手続きがあります。
まず、注意するポイントについて、見ていきましょう。
【健康確保措置について】
高度プロフェッショナル制度導入には、対象労働者の健康確保措置を行うことが義務付けられています。
具体的には
- 客観的な方法で、経営者は対象労働者の勤務時間などの「健康管理時間」を把握すること
- インターバル措置
- 健康管理時間上限措置、または年間104日の休日確保措置いずれかを講じる
- 健康管理時間が一定時間を超えた場合は、医師による面談指導実施
- 省令で定められた事項内で、労使間で定めた措置を講じる
などとなります。
【導入手続きについて】
また、高度プロフェッショナル制度を導入するためには、以下の手続きが必要となります。
- 職務内容や制度適応範囲に関して、職務記述書などに署名し、本人の同意を受けるなど、本人の同意を得ること
- 対象となる業務や、対象労働者をはじめとした各事項などは、決議を取ること
上記手続きをした上で、対象労働者の健康などに配慮することが必要とされています。
時間外労働上限規制実施時の注意点
時間外労働上限規制に関して、企業が取り組むべき対応にはどのようなものがあるのでしょうか。
実例として、全従業員に対するシフト管理を徹底し、残業時間が発生しないように取り組んだ企業があります。
時間外労働が減少するとともに、有給取得率の促進にもつながりました。
時間外労働上限規制についての取り組みを進めることで、無用に残業させない企業に対して、従業員の中で愛社精神が高まり、イメージが向上するとともに、離職率の減少も実現できたそうです。
ただし、時間外労働上限規制実現が業務効率化に繋がればいいのですが、経営に支障がでるほどのマイナス影響が懸念されるリスクも考えられるので、注意が必要です。
特に、中小企業に関しては、人材確保状況や取引の実態などを踏まえて実施することが大切です。
現在、以下の業務に関しては猶予されることが決まっています。
■ 自動車運転業務:改正法施行5年後に上限規制を適用
適用後の上限時間は年960時間。
将来においても、一般則適用については引き続き検討する。
■ 建設業界:改正法施行5年後に上限規制を適用
災害時の復旧・復興事業に関しては、複数付き平均80時間以内/1カ月で100時間未満の要件は適応しない。
この件に関しても、将来においても一般則適用に関して引き続き検討する。
■ 医師:改正法施行5年後に上限規制を適用
具体的な上限時間については、医療界参加の検討の場で規制の具体的な在り方や、労働時間短縮策について検討し、結論を得るとする。
新技術・新商品の研究開発業務、医師の面談指導や、代替休暇付与などの健康確保措置を行った上で、時間外労働上限規制は適用予定なし。
■ 鹿児島/沖縄の砂糖製造業:改正法施行5年後に上限規制を適用
有給休暇取得義務化に対する対応実施時の注意点
有給休暇取得の義務化に関しては、どうでしょうか。
企業側としては「繁忙期・閑散期と社内の状況を見ながら有給を取得してほしい」という思いもあるかもしれませんが、基本的には社員から有給休暇取得申請を受けた場合、拒否できません。
有給休暇は入社時期で取得タイミングが異なりますので、この点は注意が必要となります。
・入社と同時に有給休暇を10日以上付与する場合
この場合は、入社6ヶ月までの間に5日の取得時期を指定し、有給休暇を取得させます。
例えば、10月1日に入社した場合、翌年3月31日までに5日の有給休暇取得が必要と考えましょう。
・入社6か月後に10日以上の有給休暇を付与する場合
入社6ヶ月の間に、労働日の8割以上出勤した場合、1年に10日以上の有給休暇が付与されるのが一般的です。
4月1日入社の場合、入社6ヶ月の時点である10月1日に10日の有給休暇が付与されます。
ここから1年間、つまり翌年の9月30日までに5日の有給休暇取得が必要と考えましょう。
・自分の意思で従業員が有給取得し、消化しているケース
有給休暇付与基準日から1年の間に5日以上、従業員が自分の意思で有給休暇を取得していれば、追加で5日間の有給休暇を取得させる必要はありません。
取得した有給休暇が5日に満たない場合のみ、合計して5日になるよう取得させる必要があると考えましょう。
働き方改革関連法の施行で対応すべき業務範囲
就労申請に関する仕組みづくり
働き方改革関連法案の施行で、対応すべき業務範囲の一つとして就労申請があります。
勤怠実績入力段階で労務リスクを防止していくことが、今後より重要になることを理解しておきましょう。
- 有給休暇の一部を時期指定し、消化を強制的に促す仕組みづくり
- 事前残業申請義務化
- 残業時間実績と乖離理由申請義務化
- 通知による申告漏れ/遅延防止
さまざまなアイデアを活用し、勤怠実績を正しく把握し、違反しないよう取り組みを進める必要があります。
集計ロジックの改修
勤務制度の変更に伴い、集計ロジック改修が必要となりますので、対応を進めましょう。
具体的には、以下のような取り組みが必要となります。
- フレックス制や高度プロフェッショナル制管理対象者に対する集計ロジック見直しや給与計算への反映
- 勤怠締日前の残業時間集計及びチェックを実施する仕組みづくり
務制度に対応した管理方法実現
勤務制度に対応した管理方法に見直しをすることも、必要となります。
具体的には、以下の取り組みが必要と考えられます。
- 全社員に対して、Web打刻やPCログなどの客観的データを取得し、管理する基盤整備
- 入力時チェックやアラート通知などの業務効率化
- インターバル制に対応した一定の休憩取得実績を確認する仕組み構築
照会システム構築推進
働き方改革関連法に対応するために、今後はますます現場での労務改善が重要となります。
以下のような照会システム構築を進めることが、業務効率化につながります。
- リアルタイムでの労務状況把握の実施
- 就労管理者による早期業務調整
- 注意喚起メールや残業通知メールの自動化など、通知やアラートの充実
労務状況などが可視化できる基盤整備
労務状況可視化と、今後のさらなる改革を見据えた基盤整備も、今後欠かせません。
もちろん、労務や人事に対しても、同様の働き方が求められますから、自動化できる部分は自動化したり、業務効率化に繋がる取り組みは積極的に導入して対応することが必要です。
- 労働基準法遵守のための部門別残業時間可視化
- 労働基準法遵守のための個別有給消化率可視化
- フレックス制やインターバル制、高度プロフェッショナル性など、新制度をベースとした新たなる分析の追加
これらの取り組みを進めることで、人事・労務部門の負荷を軽減しつつ、取り組みを進めることが可能です。
速やかに対応することが求められていることを理解し、組織全体で取り組むことが重要と考えましょう。
まとめ
働き方改革関連法案では、新たに義務付けられたことも多く、遵守されていないと罰則が課せられることもあります。
まずは、法案を正しく理解し、対応していくことが重要です。
働き方改革を進めるには、企業にとって負担が大きい面もありますが、長い目で見たときに従業員、そして経営の健全化につながります。
これを機に、社内の労働環境を見直し、改善していきましょう。