パワハラとは?-パワハラの定義-
パワハラとは「パワーハラスメント」の略であり、主に職場での人間関係で用いられる言葉です。上司と部下など立場的・人間関係的に有利な立場を利用した嫌がらせ行為(ハラスメント)全般を指します。
基本的には上司から部下に対して使われますが、場合によっては専門知識を持つ部下が上司に対してパワハラを行うという場面も少なくありません。
パワハラは社内の役職ではなく、あくまでも「立場」を利用した嫌がらせ行為のため、上司・部下・同僚など発生する関係性はさまざまです。本人がパワハラだと自覚せず行っているケースも多く、各社ではマネジメント方法の見直しが求められる傾向にあります。
以前はパワハラを取り締まるための定義や基準が存在しませんでした。しかし現在では、パワハラか否かを判断する基準として「労働施策総合推進法30条の2第1項」により、下記3つの要素全てを満たしていることをパワハラの定義としています。
【1】職場内で優位な立場を利用した行為
【2】業務上必要な範囲を超えて行われる行為
【3】上記2つにより労働者に苦痛を与え就業環境を害している
それぞれの要素について、詳しく解説いたします。
【1】職場内で優位な立場を利用した行為
パワハラはパワー(力)の名の通り、職場内で優位な立場であることを利用した嫌がらせ行為です。先述した通り代表的なものは上司から部下ですが、あくまで重要となるのは「立場」であり役職ではありません。社内の立場的に断れない、文句を言えない関係性であればパワハラは成立します。
例えば、下記のような行動もパワハラに分類される行為です。
- 専門知識を持った部下が知識を持たない上司を馬鹿にする
- ベテランのパートやアルバイトが新人社員に嫌味を言ったり嫌がらせしたりする
また、一対一で行う行為だけでなく、集団で特定の誰かを無視する・攻撃するなどの行為も、パワハラとして認められる可能性があります。一方、立場的な優劣がなく業務にも無関係な喧嘩などはパワハラとは認められません。
【2】業務上必要な範囲を超えて行われる行為
パワハラと認められる重要な要素の2つ目が「業務上必要な範囲か否か」という点です。
パワハラは立場を利用した嫌がらせですが、何を嫌がらせと判断するかは人によって異なります。上司は部下を育てる立場でもあるため、ときには部下がショックを受けるような指導や叱責をしなければならないときもあるでしょう。
そのためにこの条件がパワハラの定義として設けられているのです。業務上必要な範囲と認められれば、たとえ叱責や指導で部下がショックを受けたとしてもパワハラとは認められません。
しかし、ミスをした部下に対する叱責で「人格を否定する言葉」などを言っていた場合、業務上の必要な範囲を超えているため、パワハラとなる可能性が高いでしょう。
【3】労働者に苦痛を与え就業環境を害している
パワハラとして認められるために必要な最後の条件が、上記2つの要素が原因で身体的・精神的に苦痛を感じ、就業環境が悪化して本来のパフォーマンスを発揮できなくなることです。
具体的には下記のような環境が挙げられます。
- 何をしても上司に罵詈雑言を浴びせられ、精神的に苦痛を感じてしまう
- 能力を問わず意図的に雑用ばかりさせられ、就業意欲がなくなってしまった
- 意図的に仕事を与えられず、周囲から無視され続けて精神的に病んでしまった
つまり、【1】と【2】が原因で身体的・精神的に苦痛を感じ続けており、業務にも支障が及んでいる場合はパワハラとして認められる可能性が高いということです。裏を返せば、上記いずれかのうち一つでも当てはまらない場合は、同じような状況下であったとしても、パワハラとして判断されないということもあり得ます。
パワハラの6つの種類(パワハラ6類型)
厚生労働省の分類によると、パワハラは大きく6つの類型と種類に分けられます。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係の切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
上記6つのいずれかに該当しており、パワハラの定義にも当てはまる場合は、パワハラとして認められる可能性が高いといえるでしょう。実際のパワハラではどれか一つではなく、複数を並行して行われるケースが多いです。それぞれの類型について詳しく解説いたします。
身体的な攻撃
殴る・蹴る・叩くなど、物理的に苦痛を与える行為です。パワハラとして該当するのはもちろん、傷害罪などに抵触する可能性もあるでしょう。
具体的には下記のような行為が身体的な攻撃として挙げられます。
- 胸ぐらを掴んで締め上げる
- 拳で顔や体を殴りつける
- 飲み会で飲酒を強要する
- 書類や物などで体や頭を叩く
- 怒鳴りながら物を投げつける
なおこうした身体的攻撃には、攻撃した側の悪意や意図は関係ありません。叱責はもちろん飲み会などの勢いで頭を小突いたり、ツッコミで軽く叩いたりなどの行為も場合によっては身体的攻撃とみなされるため注意しなければなりません。
精神的な攻撃
暴言で人格を否定するなど、精神的に苦痛を感じさせる攻撃です。身体的な攻撃のように物理的な判断基準がないため、知らず知らずのうちに行ってしまっている可能性が高いパワハラといえるでしょう。
具体的には下記のような行為が精神的攻撃とされます。
- 成果を上げられない部下に対して「役立たず」と罵る
- 社内の立場を利用して脅迫する
- ミスをした社員を大勢の前で晒し者にして貶める
- 馬鹿、給料泥棒、仕事を辞めろなどの侮辱発言
業務上必要なミスの指摘や改善案の提示などであれば問題ありませんが、指摘の範囲を超えた人格否定・名誉を傷つける発言はパワハラとして判断される確率が高いです。
また本人に直接伝える発言のみでなく、「わざとらしくため息を吐く」「書類や荷物などを大きな音を立てるように置く」などの行為も、パワハラとして認定される可能性があります。
人間関係の切り離し
社内において一人だけ情報を与えず、周囲から意図的に孤立させる行為です。上記2つが一対一で発生しやすいのに対して、こちらは個人対集団で行われる可能性が高いパワハラといえるでしょう。
具体的には下記のような行為を指します。
- 「君は会議室で仕事をしなさい」と理由なく別室で仕事をさせられる
- 「君は会議に参加しなくていい」と参加させてもらえず、情報も共有されない
- 社内の誰に話しかけても無視をされ、相談も報告もできない
- 飲み会や社員旅行など社内行事に自分だけ声をかけられない
- 社内共有の情報を自分だけ共有してもらえない
指導や研修のために必要であれば問題ありませんが、不当に孤立させる行為は立派なパワハラとして認められます。
過大な要求
十分な教育やサポートを行わず、能力的・物理的に達成不可能な要求を押し付ける行為です。
具体的には下記のような行為は過大な要求として認められる可能性があります。
- 語学力がないのにサポートもなく急に海外赴任を命じられる
- 明らかに不可能な営業ノルマを設定し、戦略の共有などもない
- 毎日退勤時間直前に当日中の仕事を大量に押し付ける
- 休日中や就業時間外を使って仕事を処理することを要求する
昔はこれらの行為が当たり前のように行われていましたが、パワハラ防止法が定められた現代では悪質なパワハラとして厳しく取り締まられています。
過小な要求
一方、能力や立場に見合わない仕事しか与えないという過小な要求もパワハラ行為の一つです。
具体的には下記のような分不相応な仕打ちを指します。
- 管理職なのに新人と同じ仕事しかさせてもらえない
- 仕事そのものを任せられず、何もすることがない状態をつくる
世間的に「窓際族」と呼ばれる立場に追い込む行為が事例としてわかりやすいでしょう。能力と状況に見合った仕事を与えるのは上司の基本的な役割の一つです。過大・過小どちらの場合も立場を利用した不当な扱いとしてパワハラと判断される可能性があります。
個の侵害
プライバシーを侵害するような発言・行動もパワハラの一つです。
個の侵害として分類されており、主に下記のような行為を指します。
- 恋人はいるのかなど私的な質問を何度もしてくる
- 明日や明後日の予定など、プライベートの情報を聞き出そうとする
業務に関係がなく、聞く必要のない質問を執拗に行うことはパワハラの一種となりうるため、個人の詮索は極力避けたほうがよいでしょう。
パワハラをする人の特徴
パワハラを行う人のタイプは多種多様ですが、その中でも共通する特徴がいくつかあります。ここからパワハラをする人に多い性格的な特徴を3つご紹介いたします。
自己中心的な考え方を持っている
パワハラをする人は自分の主張が正義だと思っている傾向が強く、相手の気持ちを考えることが苦手なタイプが多いです。
自己中心的な思考をしているため、周囲の声に耳を傾けることは少なく、自分の要望が通らなかったときは攻撃の勢いも増します。
自分の言葉で相手がどう感じるか?を考えないため、手軽な立場や権力を利用するのです。その結果相手は逆らえなくなり、業務の範囲を超えたパワハラ行為が発生しやすくなります。
自己顕示欲が強くプライドが高い
パワハラをする人は「自分は強い・偉い存在である」と誇示したい欲求が強い傾向にあります。特に会社は明確な上下関係が存在する組織であるため、役職が上がるほどに自己顕示欲求も強くなっていくのでしょう。
自身の力を誇示したいからこそ、周囲を貶めることで自身の有能性をアピールして優越感に浸るのです。またプライドが高く自分より能力が上の相手に対しては、対抗心や嫌悪感を抱くケースも少なくありません。
ストレスを抱えやすい
立場と性格の関係から、大きなストレスを抱えており、その発散のためにパワハラ行為をしてしまっている人もいます。過度なストレスはイライラや冷静な判断力を奪ってしまうため、本人が本来は意図しない言葉まで発言してしまっている可能性もあるでしょう。
こちらのタイプは性格や人間性よりもストレスという外部要因が原因であるため、社内サポートなどを充実させることで改善が期待できます。場合によっては社内カウンセリングなどで精神面のケアを提案するとよいでしょう。
以上がパワハラ行為をしやすい人の代表的な特徴です。上記に当てはまるからといって、必ずパワハラをしてしまうわけではありません。先入観だけで判断せず、まずは客観的に観察・分析することが大切です。
パワハラ防止法について
2020年より施行された「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」により、パワハラの防止が企業の義務となりました。この施策によりコンプライアンスの側面からパワハラ防止を強く意識する企業が増えています。ここからパワハラ防止法の概要、そして企業が負う4つのパワハラ防止義務について解説いたします。
パワハラ防止法の概要
パワハラ防止法とは、職場内でのパワハラを防止するために施行された法律です。この法律が施行された背景には、都道府県の労働局に「職場における嫌がらせ問題」の相談が多数寄せられるようになったことが挙げられます。
以前は職場におけるパワハラ問題を取り締まる法律がなかったため、労働者は嫌がらせを受けていても、泣き寝入りせざるを得ない状況だったのです。
職場でのいじめなどが原因でうつ病などを患ってしまう労働者も増加傾向にあり、近年では社会問題化するほどになっていました。そこで2012年より厚生労働省が提言していた法案を強化し、法律として事業者にパワハラ防止を義務付けることになったのです。
なおパワハラ防止法の施行開始時期は会社の規模によって異なります。大企業は2020年6月から義務化がスタートしており、中小企業は2022年4月より施行開始となります。
パワハラ防止法の義務を果たさなかったときの罰則は定められていませんが、行政の是正勧告に従わなかった場合は企業名が公表されることになります。
パワハラ防止法の4つの義務
パワハラ防止法が施行されたことで、事業者は労働者に快適な労働環境を提供するために、大きく分けて下記の4つの義務を負わなければなりません。
- 事業主の方針の明確化と周知・啓発
- 必要な相談窓口の設置及び体制の整備
- パワハラが発生した際の迅速かつ適切な対応
- その他必要な措置
それぞれの義務に求められる具体的な措置は下記の通りです。
・社内方針の明確化と周知・啓発
事業を展開する事業主は、社内におけるパワハラ防止の方針を明確化し社内全体に周知・啓発していかなければなりません。同時にパワハラを行った者に対する罰則や対処などを就業規定に記し、その旨を労働者全員に周知・啓発することも義務として含まれています。
つまり会社としてのパワハラに対する方針を明確にし、それを社内全体に浸透させなければならないということです。
・必要な相談窓口の設置及び体制の整備
労働者がパワハラを受けた際に相談できる窓口を設置し、その存在を労働者に周知しなければなりません。またパワハラ相談を受けたときは相談窓口の担当者が、相談内容に応じて柔軟に適切な対応をしなければならないという義務です。
・パワハラが発生した際の迅速かつ適切な対応
万が一、社内でパワハラが発生していることが発覚した場合は、早急かつ正確に事実確認を行ったうえで被害者を保護し、加害者に対する適切な処置を行わなければなりません。また措置が完了した後は、再発の防止に向けた対策をしなければならないという義務です。
・その他必要な措置
被害者・加害者のプライバシーを保護するために必要な措置を行い、その旨を労働者に周知しなければならないという義務です。加えて、パワハラを相談したことを理由に不当な解雇や扱いをしないことを規定として定め、労働者に周知・啓蒙しなければなりません。
以上がパワハラ防止法によって定められた事業主の義務です。まとめると社内でパワハラが発生した場合の規則・罰則を明確化し、いつでも相談できる窓口を設置すること。
そして被害者・加害者のプライバシーを尊重しつつ、早急かつ適切な対処を行い再発防止に努めましょうという法律です。
パワハラの対策・防止方法
パワハラ防止法に則るためには、パワハラ防止のための対策を講じなければなりません。パワハラが発生しないよう努めることはもちろん、万が一発生してしまった場合の措置についても考えておくべきでしょう。ここからパワハラの対策・防止方法についてご紹介します。
対策・対処法
パワハラへの対策を徹底するためには、パワハラが発生してしまったときの対処も非常に重要です。会社のパワハラに対する姿勢を労働者に見せることになるため、誤った対処をすると労働者からの信頼性を失うことにもなりかねません。
パワハラへの対処は慎重かつ適切に行う必要があります。ここから社内でパワハラが発生してしまったときの基本的な対応・対処方法についてご紹介いたします。
・就業規則に則った措置・対処を行う
社内でパワハラが発覚し事実確認の結果としてパワハラが行われていた場合は、就業規則に則った措置・対処を行います。そのためにはパワハラに対する就業規則を定めておかなければなりません。これがパワハラ防止法の義務の一つとして、パワハラに対する就業規則の記載が定められている理由の一つです。
パワハラが発生したとしても、加害者である社員を即刻解雇するというわけにはいきません。労働法的にはもちろん、パワハラ社員が会社の重要なポジションを担っている人材なら、なおさら即時解雇は難しいでしょう。
就業規則として基本的な措置・対処が記載されており、それが社内全体に浸透していれば、パワハラ社員に対しても冷静かつ客観的に対処することができるようになります。
・パワハラ加害者・被害者双方と面談を行う
パワハラの相談があったからといって、事実確認をせずに措置を行うわけにはいきません。加害者側がパワハラであると自覚がない可能性もあります。
加害者・被害者の双方と面談を行い、事実確認を行いましょう。事実確認の結果、パワハラとして認められる行為があった場合は、面談内容と就業規則を通じて適切な対処を行います。
・人事措置を実施する
面談などを通じて改善を要求しても、変化が見られない場合は会社として人事的措置を行う必要があります。減給・懲戒免職などを視野に入れて対処を進めていきましょう。
防止方法
本来はパワハラが発生しない労働環境こそがもっとも理想的です。そこでパワハラ防止に効果が期待できる3つの方法をご紹介いたします。
・パワハラ防止に対する規則を明確化させる
パワハラ防止法の義務でもある通り、パワハラ防止に対する就業規則を明確に定めておきましょう。労働者は就業規則に則って働くことを前提に雇用契約を結ぶため、パワハラ発生時の加害者社員の措置にも活用できます。
・パワハラ防止規則を社内に浸透させる
定めたパワハラ防止の規則を社内の労働者に浸透させることが大切です。これもパワハラ防止法の義務の一つであり、会社が率先して行うべきパワハラ防止の施策といえるでしょう。
就業規則を浸透させるためには、毎朝の朝礼などでこまめに啓蒙するほか、早急なパワハラ相談窓口の設置も効果的です。
基本的にはパワハラ防止法で定められた義務を果たしていれば、パワハラ防止に役立つ施策は概ね実践できているでしょう。中小企業のパワハラ防止義務化は2022年と目前に迫っているため、まだ着手していないなら早めに取り組みをスタートしておくことをおすすめします。
・管理職へのパワハラ防止研修を行う
世代の違う管理職などは、何がパワハラに該当するのか具体的にイメージできない人も少なくありません。そのため管理職を対象にしたパワハラ防止研修を行い、どのような行為がパワハラに該当するのかを論理的に学べる機会を作ることも大切です。
またパワハラとして判断されないように指導や教育を行う方法についても、改めて研修が必要な場面は多いでしょう。社内で定期的な講習会を行うほか、パワハラ防止の情報がまとめられた書籍や資料などを配布することも方法の一つです。
まとめ
パワハラ防止法は法案が可決されて施行されてから日が浅い法律です。働き方改革やテレワークなどで社内改革が求められるなかでの法改正で、社内体制を整えるのに苦労している会社も少なくないでしょう。
しかし、パワハラ防止は労働者の安心を守るだけでなく、業務の生産性や社内雰囲気の改善などさまざまな効果が期待できる取り組みです。
「パワハラ防止義務と言われても何から始めればいいのか…」と困惑するかもしれませんが、そうした事業者や会社をサポートする組織やサービスも存在しています。もしパワハラ防止に関して不安を感じているのであれば、一度相談してみるのも選択肢の一つです。
社内からパワハラを撲滅して労働者・会社、どちらにとっても快適な労働環境の構築を目指しましょう。