管理職・経営人材
組織開発
企業における「人手不足」とは、その状況が続くと業務遂行に差支えがでるような困窮した状況を意味します。
そのような深刻な人手不足状況が続くと、それが原因となり、職場内の雰囲気がぎくしゃくし、部署内の人間関係にまで影響が出る懸念があります。
人が不足すると、一人あたりに割り当てられる仕事量が増えますから、個人の負担が増加し、それが原因でまた離職者が出るようなリスクも考えられるのです。この悪循環が続くと、企業によっては事業継続にまで影響することが考えられます。
このように、人的リソース減少は深刻な経営課題となっているのです。
中小企業庁による「中小企業白書2018」では、2009年から製造業・建設業・卸売業・小売業・サービス業全業種で人材過不足を示すアンケートデータがマイナスとなっていることが報告されています。
参照:中小企業庁「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」
また、内閣府によると、人手不足の要因として日本の人口が1億2571万人いるなかで、
この2点が直接的な原因となって、人手不足の慢性化が深刻になっていることが分かります。(令和2年10月1日時点)。
以上のデータから、日本では高齢者が増加を続け、就労可能な人口が減少し続けている状況に陥っており、各企業で人手不足が慢性的な問題となっているのです。
2020年に発生した新型コロナウイルス感染拡大の影響も、人手不足の大きな要因となっています。
帝国データバンクの調べによると、2021年7月の時点で従業員不足を感じている正社員は40.7%となっており、人手不足を実感している割合が以前に比べて、増加傾向にあることが分かります。
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、一時的に業務縮小などを実施した結果、人手不足が解消傾向にあったのも事実です。
しかし多くの企業が、コロナ禍だからといって、規模縮小を続けていては、企業として成長が見込めないと気づき、2021年のウィズコロナ時代以降、コロナ禍においてどのようにビジネスを展開していくかを模索するようになりました。前向きに動き出した企業が増えたことは、日本社会にとってはプラスです。
しかし、深刻な人手不足はいまだ解消されず、多くの企業が人手不足に拍車がかかっていると感じているのが現状といえるでしょう。
人手不足解消のため、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受ける以前より、各企業では求人募集が強化されていました。特に中小企業においては、可能な限りの人材増員に取り組んでいる企業は多くあります。
規模の小さな組織にとって、人手不足が経営に深刻な影響を及ぼすため、人材拡充は急務と考えている企業が多いのです。
「人手が不足するなら、求人を強化すればいい」と思うかもしれませんが、企業にとって採用コストは大変大きな負担となります。
求人広告出稿や、人材会社への手数料支払い、求職者に対する会社案内作成など、あらゆることにコストが必要となるのです。
また、応募者が遠方から来た場合は交通費や宿泊費も必要です。
このように、企業、特に中小企業にとって、採用コストは大きな負担となります。
「では、コストをあまりかけずに人材を採用する方法を考えよう」と思うかもしれません。
確かに、掲載料が安い媒体や、成功報酬制のエージェントなども存在しますが、実際問題として、そういった媒体を使用して求人を掛けても、なかなか優秀な人材が確保できないという現状があります。
優秀な人材を集めるためには、やはりある程度の出費は避けられないというのが現実です。
こうした複合的な理由で、企業は人手不足に陥っているといえるでしょう。
人手不足が叫ばれる中でも、特にその影響が著しい業界があります。
まず、テレビや新聞のニュースでも多く取り上げられている医療業界の人手不足について、見ていきましょう。
元々、医療業界は「命を預かる」という責任の重さや、不規則な勤務形態、業務量の多さが原因となり、人手不足が続いていました。
特に夜勤は、どうしても配置人員が少なくなりがちで業務量も多く、生活が不規則になるだけでなく、睡眠不足などの身体的負担をもたらす激務とされてきました。
その上、現在は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、さらなる人手不足拡大が続いている状況です。
こうした状況を受け、電子カルテや受付や会計の自動化など、非接触対応が可能なITツール導入などで労働効率をアップさせるよう取り組みが行われています。
観光業などのサービス業や飲食業は、給与や待遇面といった理由で慢性的な人手不足が続いていましたが、新型コロナウイルスの流行により業界全体が大きな打撃を受け、大変苦しい状況が続いています。
もともと、営業時間が長いホテルやレストランは勤務形態が不規則になりがちで、早朝・深夜勤務もあり、土日休暇を取れず、休日数も少ないことから、人材が集まりにくい業界でした。
このようにワークライフバランスがとりにくいため、離職率も高く、人材確保が難しい傾向にあります。
こういった現状を打開するために、サービス業・飲食業においてもITツール導入で生産性を向上させ、労働効率をあげる試みなどが積極的に実施されています。
建設業界では、現場で働く職人や、管理監督者が不足している状況が続いています。
人手不足の原因としては、まず現場で活躍していた人材が高齢化し、就業できなくなったこと、そして若年層が建設業界に対して「3K(きつい・危険・汚い)」というネガティブなイメージが定着してしまっていることがあげられます。
人材を確保するために、建設業界でもさまざまな取り組みが行われています。
まず、DX化による工数削減・業務効率化が積極的に行われ、業界全体のイメージアップに取り組んでいます。
また、福利厚生や職場環境などを整備し、従来の建設業の持つイメージを払拭することに努めている企業も数多くあります。
これからマンパワーとなり得る世代に対して、建設業界に対して抱くイメージが変わるように、テレビCMなどもスタイリッシュなものが増えていることなど、様々な取り組みが続けられています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、オンラインによる購買需要が格段に増加しました。
これまではオンラインで物を購入する習慣がなかった人も、接触を減らすためにとオンライン購入をするようになり、市場は急激に拡大しました。
その結果、運送業界の仕事は急増したのです。
しかし、この流れに人材の総数が追いつかず、運送業界は人手が足りない状況が続いています。その上、大手ECサイトの配送料は大変安価で、運送会社に支払われる報酬も減少傾向にあります。
人手不足で、配送する荷物が増え続けているにも関わらず、賃金が改善しない状況が続くというのは、大変悪循環です。
さらには、運送業という仕事に対して「大変そう」と、どうしてもネガティブなイメージが拭えないため、ドライバーの仕事を選ぶ人が減少しています。
こうした事情で、現場で働くドライバーは重労働・低賃金といった環境を強いられているのです。
介護・福祉業界の人手不足は、テレビや新聞などのニュースで取り上げられる機会も多く、耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
少子高齢化の影響をダイレクトに受けている業界であり、高齢化に伴う利用者数増加に対して、それをケアする人材が不足している状況が続いています。
政府も状況を改善するために施策を打ち出していますが、専門性の高いスキルが必要となる仕事であることも影響し、人手不足解消にはなかなか至っていません。
令和元年度「介護労働実態調査」(※参照)では、およそ9割の事業所が、介護事業所における人手不足の理由について、「採用が困難」と回答しています。
そのうち、57.9%が「同業他社との競争が激しい」と回答しているのです。
介護を志望する人材が限られる中、その人材を確保するための競争が激化しているのが現状といえるでしょう。
参照:公益財団法人介護労働安定センター「令和元年度解度労働実態調査」の結果
人手不足によって生じる経営上の課題には、どのようなものがあるのでしょうか。
まずは、企業と従業員のミスマッチがあげられます。
「人手不足だから、とりあえず」と無理に人材を雇用しようとすると、企業と従業員の間にミスマッチが生じてしまいます。
企業が想定しているスキルを持っていない人材を採用してしまった場合、従業員サイドとしても仕事へのモチベーション維持が困難になるなど、せっかく人材を採用しても期待する効果が得られないケースも増えているのです。
採用される側としても「早く就職したい」「仕事をスタートさせたい」という思いが強い場合、職場を厳選せずに選んでしまい、ミスマッチとなるケースもあります。
ニーズのミスマッチは、採用する側、される側、双方にとって大変不幸な結果となってしまいますから注意が必要です。
また、採用した人材との間にミスマッチが生じたとしても、教育する余力があれば改善が期待できますが、人手不足の状況では社員教育を行うこと自体が難しい状況となってしまいます。
このように、慢性的な人手不足の状況は、経営自体を脅かすリスクもありますから、迅速に対応する必要があるでしょう。
人材が不足すると、企業として成長していくためのマンパワーがどうしても不足します。
それに限らず、場合によっては現在の企業規模を維持することすら、難しくなってしまうということを理解しておきましょう。
例えば、どんなにいい商品やサービスがあったとしても、営業担当に欠員が出てしまった場合、フォローできる顧客の数はどうしても減少してしまいます。
また、新しいアイデアがあったとしても、人的リソースがない状況では、新規事業として展開させていくだけの体力がない状況となってしまい、成長が見込めなくなってしまうのです。
こうした状況が続いた結果、競合他社との競争において、勝ち抜くことができない可能性が高まります。
近年はSNSを活用した採用など、さまざまな新しい取り組みが進められています。もともと、人材募集は紙媒体やWebなどで応募をかけ、応募者が自ら応募してくれるのを待つというスタイルが一般的でしたが、現在は企業から求職者に対してアプローチをする傾向が高まっています。
一方で、こういった取り組みに順応しきれない企業があることも事実です。人材が不足している企業は、そのような新たな採用の取り組みを行うことができず、結果的に採用に力を入れることができている競合他社に、優秀な人材が流れてしまう、ということがあるでしょう。
近年、業務プロセス改善に役立つサービスが数多く提供されています。バックオフィス効率化を図るだけでも、かなりの処理量をこなすことが実現可能です。
バックオフィスとは、経理や人事・労務・法務といった企業活動を支援する部署のことを指します。
企業活動の機能としては、生産機能や販売機能、事務・会計機能のことであり、こうした処理は企業活動継続には欠かせないものです。このバックオフィスをDX化させることは、大幅な業務効率化に繋がるでしょう。
もともとバックオフィス業務は定型業務が多いため、DX化しやすい傾向にあります。人件費などのコスト削減や、ヒューマンエラー防止による生産性向上などの効果もあげられますので、これを機に導入を検討するのもいいでしょう。
人材確保において、重要なのが労働条件です。
先ほど人手不足が特に著しい業界について触れましたが、やはり、採用がなかなか上手くいっていない企業は、労働条件が良くないことが大きな原因となっている可能性も高いです。
賃金改善や福利厚生の充実など、社員が「この企業で働き続けたい!」と思うような魅力を提供することこそが、人手不足を解消する大きなヒントとなります。
具体的には
などが挙げられます。
人手不足に窮しているものの、採用が難しいという場合は、社員一人ひとりの生産性を上げることを検討しましょう。
社員一人ひとりのスキルを向上させるために、教育投資を積極的に進め、労働生産性を引き上げるのも有効です。
一見遠回りのように感じるかもしれませんが、長い目でみると、しっかりとしたスキル習得は、最終的には高い生産性を出す可能性もあります。社員サイドとしても、しっかりと教育してもらえるメリットは大きいものです。
エンゲージメントを高める効果も期待できますから「今在籍している社員を育成する」ことも、視野に入れてみてください。
採用や教育が難しい場合は、アウトソーシングを活用するのも1つの方法です。
特に、繁忙期・閑散期がある仕事の場合は、繁忙期だけスポット的に人材を依頼できるアウトソーシングは心強い存在です。
「自社の正社員でなければ」という考えを捨て、柔軟に検討するのもおすすめです。
人手不足の解消には、労働条件を改善して魅力的な職場づくりを実現し、採用時の応募人数をアップさせること、そして職場環境を改善し、離職率を下げることが重要なポイントとなります。
近年、採用に関しては新型コロナウイルスに対する企業の取り組みなどを重視し、企業が社員を大切にしているかをチェックする傾向も出てきています。
また、リモートワークなどに柔軟に対応しているか、キャリアアップ支援があるかも企業選びのポイントとなっているようです。
社員が安心して長く働き続けられるように、職場環境を整えることが重要であると考えましょう。
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