公開日:2022.04.22

更新日2024.08.29

エンゲージメント向上

チーム・組織づくり

タレントマネジメントとは?話題の理由から実際の導入例まで解説!

近年注目を集めている「タレントマネジメント」は、実は1990年代後半にアメリカで誕生した考え方です。
具体的な活用方法としては、企業の従業員(タレント)が持つスキルや強みを重要な経営資源として配置や育成、そして今後必要となる人的資本の分析や予測、それらを解消するための採用計画などです。今回は、タレントマネジメントが注目されている背景から、実際の活用方法までご紹介します。

そもそもタレントマネジメントとは?

「タレント」とは、従業員を意味します。そして、タレントマネジメントとは、従業員がもつ能力やスキルといった情報を重要な経営資源として捉え、それらを最大限活かすために、個人個人の持つ特性やスキルを見極めて、適材適所へと配置する戦略的な人事のことです。

人事戦略は、目指すべき目標や人事課題によって企業ごとに異なるものです。そのため、タレントマネジメントといっても、実践内容は企業によって異なるのが一般的です。自社の状況や必要としているものについて、しっかりと把握した上で、タレントマネジメントをどのように取り入れていくか考えることが重要です。

今、タレントマネジメントが注目されている理由

1990年代後半にアメリカで誕生したタレントマネジメントが、近年の日本において改めて注目されるようになった背景について、詳しく見ていきましょう。

働き方改革推進の影響

政府が推進している「働き方改革」は、タレントマネジメントの普及を広げる要素のひとつとなっています。

今後、社会の変化に伴い、起きうる経営上の問題も様変わりしていくことが予測されます。この状況に対して、従来の管理型人事制度や労務管理法を継続していても問題を解決できず、企業の存続が困難になることが予測される状況です。

そこで、社内に眠っている人材を発掘し、適切な育成をするなど、社員の力を引き出す取り組みを推進したいと考えている企業が、タレントマネジメント導入を検討しています。

 

少子高齢化におけるマンパワー確保

タレントマネジメントが注目されるようになった背景のひとつに、企業を取り巻く内外部環境の変化が挙げられます。

少子高齢化に伴う労働人口減少の影響で、これまでのように、新卒社員を大量採用するというのが困難になってきました。従来の「人を増やして、成果を上げる」という姿勢では、企業成長が思うように実現できない時代を迎えています。

この状況を改善するひとつの方法として「今いる社員で、業務を効率化し、成果を上げる」という意識にシフトしつつあり、そのためにタレントマネジメントを導入するケースが増えています。

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、働き方はさらに多様化し、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。それでなくても、高齢化社会の影響で労働力人口が減少している今、社員の持つ力を最大限引き出し、生産性を向上させていくことが非常に重要と考えられるようになり、タレントマネジメントが注目されるようになったのです。

 

世界規模での企業間競争激化

現代は世界規模での企業間競争が激化しています。世界中のどこにもないようなサービス、製品、誰も思いつかないようなアイデアを創出していくことが求められる時代です。

日本においても、新卒一括採用や、年功序列などという雇用慣例や人事制度を見直し、世界と競える会社づくりが急務となっています。世界と競える商品やサービス、技術を創出するために、これまで以上に今いる従業員に注目し、育成していきたいと考える企業が増えているのです。

 

タレントマネジメントの目的とは?

では、タレントマネジメントを実施する際に、定める具体的な目的には、どのようなものがあるのでしょうか。

経営目標の実現

タレントマネジメントを実施する最大の目的は「経営目標の実現」です。経営目標とは、具体的には「売り上げや利益を上げること」「事業拡大」などが挙げられます。企業が目指す目標を達成するために、従業員それぞれの力を最大化するという考え方です。

この意識を忘れてしまうと、いつの間にか「タレントマネジメントを実現する」こと自体が目的となってしまい、成し遂げたいことが何だったのかが分からなくなってしまいます。

そのような状況に陥ると、経営目標実現という企業として掲げる大きな目標ではなく、目先にある日々の業務課題をクリアにするための手段としてタレントマネジメントを実施することになりかねませんから、注意しましょう。

 

人材調達と人材定着

タレントマネジメントを実施する目的のひとつに、人材の調達も挙げられます。現代においては、経営目標実現に必要となる人材を揃えることが、大命題です。

具体的な方法としては、人材を組織の外から採用するケース、そして組織内にいる隠れた人材を発掘する方法があります。そして、人材を調達したら、その人材を定着させることも、タレントマネジメントの目的です。

これから先、この会社で自分がどのようにキャリアを重ねていくのかイメージできない場合、従業員が新天地を求めて離職してしまうケースも少なくありません。そのような時に、タレントマネジメントを適切に実施することで、社員の定着率を上げる効果が期待できます。

社員の持つ不安や不満を早期に見つけ、共に話し合いながら解消していくことで、社員も「企業に大切にされている」「自分は必要な人材だ」と感じることができ、人材流出を避けることができるでしょう。できるだけ長く活躍してもらうために、やりがいの創出やキャリアアップのサポート、そしてそれに見合った報酬設定が必要なのです。

 

人材育成

企業が求める人材像と実際に在籍している社員がぴったりと重なるということは、あまりないのが現実で、多少なりともギャップが存在している企業が多いでしょう。

そういったギャップを少しでも埋めるためには、今いる従業員を企業が望むスキルを持つ人材に育成することが重要です。業務経験を積ませ、研修を施して人材を育成することで、それぞれを目指すべき姿へと成長させることができるでしょう。

また、従業員の持つ力を最大限に活かすために、能力を思いきり発揮できるポジションを用意し、与えることも大切です。従業員と組織、それぞれが最高のパフォーマンスを実現するために、適材適所を徹底させることは欠かせない施策です。

その上で、社員が描くキャリアプランをヒアリングし、これからどんなスキルを身に着けたいか、経験をしていきたいかを把握し、本人の希望に寄り添った研修を実施していきます。そうすることによって、従業員は「自分の意思が尊重されている」と感じ、モチベーションを保ちやすくなります。その結果、仕事に対する姿勢や学習意欲向上が期待できます。

従業員の成長は、企業成長に直結します。従業員のスキルアップは、企業にとっても生産性向上や品質アップなどの効果に繋がるのです。

 

タレントマネジメントの効果とは?

タレントマネジメントを実施することで、どのような効果が期待できるのでしょうか。

従業員満足度向上

従業員の特性に合わせたキャリア開発や目標設定を行うタレントマネジメントは、従業員それぞれのモチベーションやエンゲージメントを高めることが期待できます。その結果、従業員満足度が向上することも多いでしょう。

たくさんの従業員を抱えている企業であっても、従業員は「自分は選ばれた存在として活躍したい」と考えています。その思いを企業がサポートしていくことで、従業員は信頼に応えたいと思うようになるのです。

 

従業員の生産性向上

タレントマネジメント実施のなかには、従業員の特性に合わせた目標設定や育成を行うことも含まれます。人材の維持や確保施策は、企業にとって最重要課題ともいえますから、この施策は大変重要です。

企業が従業員のニーズや特性に合わせて研修や目標設定を実施することで、従業員は経営サイドからの自分は投資を受けていると実感するようになり、その信頼や期待に応えたいという思いを抱きはじめます。

そして「この会社で活躍したい」という思いを強くし、会社の魅力や信頼を改めて認識するようになるのです。タレントマネジメントを実施することで、従業員と企業が互いに信頼し合い、大切にし合うようになり、結果として共に成長し続けられるようになります。

 

採用コスト削減

タレントマネジメントでは、社内にいる人材を育成するため、結果的に採用コストの削減が実現できます。新しく人を採用するよりも、内部の従業員を育成し、適した場所で活躍してもらうほうが、採用にかかるコストを抑えられます。

また、採用にかかる時間も減らすことができ、人材を増やす場合よりも早く成長を生み出せるかもしれません。

 

タレントマネジメントを実践する手順

実際にタレントマネジメントを導入する際の手順を確認しておきましょう。初めてタレントマネジメントを実施する場合は、7つのステップを着実に進めていくと良いでしょう。

手順1.現状を分析し、人材情報の可視化を進める

最初に、社内の人材情報を集約して、可視化しましょう。

氏名や配属、そして学歴や経歴、資格、評価などを人事データからまとめます。この作業を行うことで、いま会社にどのような人材がいるのかが明確になり、対策すべき課題に対してスキルを発揮してくれそうな人材も自然と見えてきます。

 

手順2.タレント特定、タレントプール作成

人材についての情報が集約できたら、自社で求めている人材の条件と照らし合わせながら「タレント人材」または「タレント人材候補」を抽出しましょう。

企業規模が大きい場合、従業員一人ひとりのタレントを把握することは大変な作業となります。一度人材情報を集約したらタレントプールを作成し、いつでもピックアップできるようにしておきましょう。可能な場合、これらをシステム化していくことで、効率よくタレントマネジメントが実施できるようになります。

 

手順3.育成計画作成

手順2で作成したタレントプールごとに、それぞれの育成計画を立てましょう。

人員が不足しそうなタレントプールがあった場合、新規採用計画を進めることも必要と考えてください。また、余剰人員がでてしまっているタレントプールは、配置転換を検討するのもひとつの方法です。フレキシブルに考えることが、より効果的にタレントマネジメントを進めるコツとなります。

 

手順4.人材採用

手順3の育成計画作成時に、人材不足が発覚した場合は、速やかに異動や必要に応じて採用活動を行いましょう。

その際、従業員に経営戦略と人事戦略が連動していることを意識してもらえるように、状況を正確に伝えておくことが大切です。経営層が目指すイメージを従業員に伝えることで、タレントマネジメントの効果をより高めることにつながります。

 

手順5.人事評価、レビュー

異動や採用を実施し、育成を行い、職場の体制が整ったら、一度ここまでの流れを振り返り評価を行います。

企業の業績と、個人個人の貢献度の照合などを行います。可能であれば上司と部下の間でも個別面談を実施し、お互い納得感の持てる評価となるようにしておくと良いでしょう。

 

手順6.研修の実施

採用や配置転換を実施し、業務において能力が不十分である場合は速やかに研修などを実施します。

その際、”どのような人に、どのような状態になってほしいか”というような目的を明確にすることが重要です。

ただ研修を行うだけでは、意味がありません。具体的に求める人材像を明確にし、それらを受講者に共有すること。そうすることによって、従業員が”なぜ・何のための研修なのか”を理解することができます。より研修の効果を高めるためには、求める人材像の明確化、研修の目的を従業員に共有することがポイントです。

 

手順7.ストレッチアサイメント

異動や採用後には、ややハードルの高い、簡単には達成できない課題や仕事を与え、成長を促す取り組みも積極的に実施しましょう。

ストレッチアサイメントと呼ばれるこの手法は、従業員のやる気を引き出し、仕事に積極的に取り組む姿勢を引き出します。最終的に、従業員に成長と自信を与えることができる、効果的な研修方法です。

 

タレントマネジメント実践における注意点

タレントマネジメントを導入しても、上手く活用できない失敗例も多くあるというのが現状です。そのような事態に陥らないためにも、以下の注意点に留意しながらタレントマネジメントを実践していきましょう。

人材管理と混合しない

タレントマネジメントの実施にあたり、人材管理とタレントマネジメントを混合してしまうといった失敗例が多々あるようです。タレントマネジメントを実施する際には、従来型の人材管理とは目的自体が異なり、管理対象となるデータも違うということを理解しておきましょう。

従来型の人材管理では、人事情報など人材関連の過去情報を管理し、蓄積することを目的としていました。一方、タレントマネジメントは人材に関する多種多様な情報を一元管理して、未来に向けてその情報を利活用することを目的としています。

この違いをしっかりと把握したら、合理的にタレントマネジメントが実施可能な「タレントマネジメントシステム」の導入をぜひ検討してみてください。

タレントマネジメントシステムには多くの種類がありますが、自社が必要な機能を備えているかという点や、費用や使い勝手、システムを活用できる人材が社内にいるかなどの観点を押さえ、自社に適したシステムを選ぶようにしましょう。

 

ビジョン明確化と必要な情報の定義

せっかくタレントマネジメントを導入しても、人材情報可視化にばかりウエイトをおいてしまい、本来の目的である人材発掘などに活用しきれなかったという失敗例もあるようです。

タレントマネジメントの導入時に最も重要なのは、導入目的の明確化と、必要な情報の整理です。こうしたプロセスがしっかりと行われていない状態で仕組みだけを導入してしまうと、タレントマネジメントのメリットを十分に活用しきれない状態に陥ってしまいます。

タレントマネジメントの導入時には、課題整理、そして目的を明確化し、必要なデータを整理することが重要です。

 

タレントマネジメントのPDCAサイクルを回す

タレントマネジメントは、一度決めた仕組みを延々と実行し続けるものではありません。例えば、経営目標が変更された場合、タレントマネジメントの方針もそれに合わせて変えていかねばなりません。

また、タレントマネジメントの取り組みから期待した成果が得られていない場合は、内容を見直して改善を重ねる必要があります。見直しを行わずに仕組みが形骸化してしまうと、蓄積されたデータばかりが残る、何も生み出さない取り組みとなってしまうでしょう。PDCAサイクルを回し続け、常に自社にとって適した取り組みとなるよう、アップデートを重ねましょう。

 

人事データ管理は慎重に

タレントマネジメントで活用されるタレントマネジメントシステムは、多くがクラウド上にデータを格納するものが主流となっています。クラウド上で管理することでデータ保管コスト削減が可能となり、各関係者が簡単にデータにアクセスできるためです。

ただし、人事データ漏洩のリスクもある管理方法となりますから、厳重な注意が必要となることを認識しておきましょう。

 

タレントマネジメントの導入例

では、実際にタレントマネジメントを導入した事例についてみていきましょう。

 

社員情報を一元管理課することにより人材発掘に成功

数10社のグループを持ち、合計1万人以上の従業員を抱えるA社は、企業成長戦略のひとつとして人材強化を打ち出し、人材情報を有意義に活用するためのプラットフォームを構築したいと考え、タレントマネジメントを導入しました。

社員情報を一元管理したことで、これまで把握しきれなかった多様な人材を見出すことが可能となり、社員一人ひとりの経験や資質、評価などを考慮の上、より適した人材配置が実現できたといいます。

また、自社における業務や職種に適した、今必要としている人材の把握にも活用するだけでなく、採用時のガイドとしてタレントマネジメントシステムを活用したことで、より理想とする人物像に近い採用を実現しました。

 

人材育成計画充実を実現

B社ではタレントマネジメントシステムを、人材育成計画の充実に活用しています。

誰にどの教育・研修を施すのが効果的かを、あらかじめタレントマネジメントシステムで選定できるようになったため、ピンポイントで効率の高い研修実施が可能となりました。

全員が同じ時間で同じ内容を学ぶ集合型研修ではなく、目的に合わせた個別の研修を行うことで、より高いスキルや専門知識を習得することの実現に繋がりました。結果的に、育成したい人材をより効果的に育成することができたそうです。

 

評価プロセスや人事考課工数を削減

C社は人事評価プロセスに準拠したワークフローを活用し、人事考課工数削減も実現しました。

従来の人事考課は、従業員の納得感を得るのが難しい面もありました。しかし、タレントマネジメントを導入したことで評価が見える化し、従業員も自分の評価を理解した上で今後の目標設定が可能となったといいます。

 

タレントマネジメント導入で、人材育成や採用などに幅広く活用しよう

人事の採用や育成、異動や選抜といった重要な場面において、タレントマネジメントはその真価を発揮します。従業員のスキルや能力を正しく把握し、場合によっては社内に埋もれていた企業成長のために必要な人材を見つけ出すことも可能です。

タレントマネジメントを導入する場合は、目的を明確化し、想定する活用方法もしっかりと検討しましょう。また、取り組みを効率化するために「タレントマネジメントシステム」の導入をおすすめします。

ただし、さまざまな製品が提供されており、導入には費用も掛かるものとなりますから、システムの選定においては十分な下調べをしておくようにしましょう。

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